東京の前身たる江戸の町は、十八世紀すでに百万都市であった。そこで和食は現代のスタイルへ変化を遂げる。当時は旺盛な出版が町人文化を牽引した時代。当然、板本や錦絵からは、江戸の人々が楽しんだ食べ物や流行店が垣間見られる。彼らの食べた料理は、現代の僕らが楽しむ料理とどれだけ似ていてどれだけ懸け離れているのだろう。
そんな江戸期に残された食べ物の文章や絵に誘われて、僕はその流れを汲むいまの料理を求め呑み歩く。その上で広重や国芳、三馬らに思いを馳せながらそれらを描くのだ。
資料をお伴に味わえば、目の前のひと皿にさまざまな夢想が去来する。料理の背後にはどれだけの時間が積層していることか。江戸前の豊かな幸を原資に、都市の巨大化が促した活発な経済は、各地の特産品や多様な調味料も流通させていく。そんな町場で鮨や天ぷら、蕎麦や鰻などがまさに現代のスタイルを確立させていったのだ。毎日、食べられては生まれかわる料理たち。何世代もの職人が技をつないで味を伝え、移り変わっていく流行やひとりひとり料理人らのひらめきは、そこへどんな変容を加えてきたのだろう。
それにしてもだ。文化の容れものたる景観より、食べればすぐ消えてしまうはずのお皿の上に伝統的な景色が受け継がれるのだから、やはり日本はユニークな面白い国である。
ふるかはひでたか
十貫握り 内八貫 Sushi: 8 pieces out of 10 pieces of nigiri
2016制作
キャンバスにアクリル、木製パネル
サイズ:20×25
商品コード : 2020-11-142